長い夏休み


とうとう
夏休み最後の朝になってしまった
僕は今日一日で
夏の思い出すべてを作らなければならない

八月三十一日
野菜(831)の日だ
夏休み日記帳の一ページ目に
今日は野菜(831)の日ですと書いた
でもその後がおそろしいほど続かない
まるで小さな悪魔に呪われたかのように
あまりに何も起こらない夏だった

女は
今年の夏もリア充だったぜと
一ヶ月ぶりにLINEしてきた
このメッセージだけが
今のところ僕の夏のすべてだ

独占欲
心のノートにふと浮かんだ三文字
なんだ独占欲って
どうしてこの言葉が出てきたのだろう
そんなことを考えている暇はない
今にも夏が終わろうとしているのだ
僕は慌てて独占欲を抹消した

今日は野菜(831)の日です
リア充の女がLINEしてきました
独占欲はありません
そして、そして…
posted by 仮名吹(かなぶき) at 03:18Comment(0)自作の詩

あの日の歌い方で


  ♪かわいた風に吹かれて

人気バンドのボーカルそっくりの歌い方で
命を発散させていた若者の
その後の消息を誰も知らない
当時のカラオケボックスは
今日も朝から客を呑み込み続けている

この街の誰も
僕を知らないし
僕も彼らを知らない
社会学の大学院生かなんかが
好んで論文に書きそうなネタだ

誰もが匿名のつもりで歩いてる
僕に詩に書かれているとも知らずに
つまらん詩だねとバカにする、
その詩に自分が登場してるとも知らずに

  ♪かわいた風に吹かれて

夜明けのコンビニ横の車道を
絶唱しながらチャリンコで爆走する、
もう若くない男がいた
あの日の歌い方とそっくりだった
もしかしたら
彼だったのかもしれない
posted by 仮名吹(かなぶき) at 00:14Comment(0)自作の詩

中高年の初心者たち


神の言葉は信じるけれど
日本人の言葉に耳を貸さない外国人信徒がいた
神の前にはひざまずくけれど
日本人の上に立たないと気が済まない外国人がいた

牧師は
英語ができないことを誤魔化そうと
外国人信徒に媚びて彼らの国の言葉を学習し始めた
他方僕にはこう言い放った
「そんなことではTOEICに落ちますよ?」
自宅に戻って笑うしかなかった

丘の上の教会
今ごろ風に吹かれて消え去ってしまっていても
僕は驚かないかもしれない
でもそんな気の毒な人たちこそ
真っ先に救われるのでしょうね
たしか聖書からそう教わりました
posted by 仮名吹(かなぶき) at 00:45Comment(0)自作の詩

癒されたいの


そんな
ゴリラ顔して
四十五歳にもなって
まだ私と
おかあさんごっこしたいなんて
どうしたの
会社で何かあったの

それはそうと
マンション買ってくれる話は
どうなったの
私に癒されたいなら
まずそこを
はっきりさせてくれなきゃ

ねぇ
マ・ン・ショ・ン
posted by 仮名吹(かなぶき) at 14:18Comment(0)自作の詩

詩人になりたい


彼は言った
  詩人になりたいんです
僕は尋ねた
――どんな詩人になりたいんですか?
  有名な詩人です
――…。

風の便りに、彼は今
塾講師のアルバイトをしていると聞いた
ブラックバイトだけど頑張っていて
  作家デビューしたら
  このバイトもやめる
  仮名吹さんみたいな
  素人の詩人で終わりたくない
と言っているらしい
詩人になる夢、あきらめてないんだね
お互いがんばろう
posted by 仮名吹(かなぶき) at 00:15Comment(0)自作の詩

きっと許せる


あなたのことを
あなたがしてきた傍若無人な行いのすべてを
いつかきっと許せると思う
あなたのような小悪党よりも
もっと悪い人たちを見てきたけど
彼らにも可哀想なところがあったと
今では同情さえしている
だからきっと
いつか許せる日が来ると思う

あなたのことを
あなたが自分の立場もわきまえず犯した過ちを
いつかきっと忘れられると思う
そもそもあなたは良くも悪くも
長く人の記憶にとどまれるような
印象的な人ではない
単なる不誠実な俗物だ
だからきっと
いつか忘れられる日が来ると思う

いつかこの記憶を捨てられる日が来ると思う
posted by 仮名吹(かなぶき) at 09:55Comment(0)自作の詩