心の病

 先日の現代詩投稿サイト「B-REVIEW」公式ツイキャスでもお話した通り、筆者は障害年金給付を受けながら持病である心の病と向き合って暮らしています。現在は小康状態にありますが、重篤だった時期には「一刻も早く人生を終えたい」と本気で願っていました。
 筆者がこのブログを続けているのは日本のどこかで、あるいは世界のどこかで自分の心の居場所さえ見失いそうになっている方々へ「一人じゃないですよ、みんなもですよ」というメッセージを届けるためでもあります。心の病の有無に関係なく、苦しんでおられる人への応援歌がもし届いたら作者としてこれ以上の喜びはありません。
posted by 仮名吹(かなぶき) at 03:00Comment(0)随想ほか

丸い女


だってAIの出す結論は
いつも四角いじゃないか
俺はもっと丸く生きたいんだよ
と男が言った

女は
私だって丸いわよ!
とだけ言い残して男のもとを去った

それもそうだなぁ…
と男は思い直した
だから彼は部屋から駆け出したのだ
女を追って

あたりを見回したが
女の姿は見当たらない
ちょうどやって来た深夜タクシーを拾い
男は自動運転手に言った
あのお!

よく考えてみれば
俺はあの女の何を知っているのか
住所も、得意料理も
肝心の丸さも
女の顔さえもよく思い出せない

その時女の声で月が笑った
だめじゃない
男はもっと丸くならなきゃ
posted by 仮名吹(かなぶき) at 10:24Comment(0)自作の詩

言わないで


俺は歩くしかなかった
後をつけられているのだ
だからこのまま家には戻れない
どこかで奴を撒かねばならない

不意打ちで振り返っても
奴は巧妙に物陰に姿を隠してしまう
俺は歩き続けるしかなかった

実は奴の正体は見当がついている
奴は「言葉」だ
あの日、俺が吐いた言葉が
どこまでも俺に付き纏っているのだ

しかし俺とて人間だ
我慢にも限度がある
俺は金切り声を上げそうになり
ついに立ち止まった

すると突然、
前方に見覚えのある男の背中が現れ
その男が俺に向かって叫んだ
  お前か!
  さっきから俺をつけているのは!
  言ってやろうかお前の言葉を…

言わないで!
あぁ…その言葉を言ってしまったら…
あんたのあの日はもう、
俺たちを許してはくれないじゃないか
posted by 仮名吹(かなぶき) at 13:37Comment(0)自作の詩

人魚姫


花嫁衣装を脱ぎ捨て
水着になった君は
そのままプールに飛び込んだ
貸切りプールで披露宴をというから
何かやるとは思っていたが

ところがそれが君の最後の姿だった
消防が出動しプールの水を抜いて、
隅から隅まで調べたが
金色の髪の毛一本見つからなかった

僕は他の女性と結婚し数年が経って
海辺の街に転勤になった
ある夜一人で港を歩いていると
防波堤に腰かけて
悲しい外国の歌を唄う君を見つけた

僕は気づかぬふりをして通り過ぎた
それからどうやって
家に戻ったのか覚えていない

激しく後悔した僕は
次の夜も港へ向かった
君はもうどこにもいなかった
ただ夜風に乗って
悲しい外国の歌声が僕の頬を撫でた
posted by 仮名吹(かなぶき) at 10:15Comment(0)自作の詩

ショーの怪人


〇〇ライダーのショーで必ず一人
やたら喋りが達者で
場を仕切りたがる怪人がいる
そんなデパートの屋上の午後

気がつくとその怪人は早くも
マイクを鷲掴みにしており
「人質」として集めた、
三、四人の小学生の名前と学年を聞き
いわゆる「素人いじり」を始めた

夏休みの空の下、子どもたちの熱い呼吸

怪人というかもはや司会者は
「大きな声で呼ばないと
ライダーは来ないぞ」と貴重なアドバイス
子どもたちに練習までさせ、
至れり尽くせり
どこかで赤ちゃんの泣く声がする

ついにライダーがやって来た!
怪人は出番が終わったと言わんばかりに
戦うこともなく見事に姿を消した

影の主役がいなくなったことに
母親たちだけが少し残念そうだった
posted by 仮名吹(かなぶき) at 01:06Comment(0)自作の詩