ブーメラン


警察はいつも
事件が起きてから出動する

警察は
一家心中事件の現場に到着してから
彼らの心の痛みを解明しようとする
警察は
交通事故で幼い命が失われてから
通学路と交通量の危険性を調べ始める

警察は今日も
苦しんでいる人々を横目に
法律が改正されるのをただ待っている

私たちはみな
誰かが血を流して死ぬまで
あなたの傷はまだ浅いと言い放つ

警察を生み出したのは私たちだ
posted by 仮名吹(かなぶき) at 14:05Comment(0)自作の詩

カフェで詩を書く女子


自宅ではうまく書けないから
私はカフェで詩を書くことにしている
店の雰囲気も流れてる音楽も好き
そして常連客の一人らしき
いつも素敵なお兄さん

一度私の隣に座ってくれないかしら
そしてこのタブレットを
覗き込んで話しかけてくれないかしら
  詩を書いておられたんですか
  お仕事をされてるとずっと思っていて
  声をかけられなかったんです…

  *

あなた、
とうとうここまで読んでしまいましたね
たしかにこの詩はカフェで書かれています
「常連客の素敵なお兄さん」とは
私のことかもしれません
でもこれを書いているのは
オシャレな若い女性ではありません
六十過ぎのおっさんです

おっさんは今トイレで席を外していて
その隙にタブレットを覗いたらこれでした
あぁ…
この常連客、気持ち悪いです
私はもう店を出ます
なんだか怖くて、
このカフェにはもう来れそうにありません
posted by 仮名吹(かなぶき) at 09:30Comment(0)自作の詩

母子家庭のこの夜


ガラス越しの子どもたちの
瞳の輝きで飾られたケーキが
この日だけは
飛ぶように売れていく

商店街に鳴りやまぬ山下達郎の
定番ソングのなかを
鉛色の顔をした母親たちが
箱を抱えて駆け抜けていく

そんな母と子たちを
本物のサンタさんは今年の夜も
屋根の上で白い息を吐きながら
ただ黙って見つめている

そしてみんな限りなく
何かを祝っている

雪の溶けない街


この街は年中冬で
雪が積もる一方なのだそうだ
雪が一時止んだら人々は雪かきに精を出し
  やあ 雪のかき氷も食べ飽きましたなぁ
  本当に 子どもの頃を思い出しますわ
そのくせまた降り出すとみな家に閉じこもり
テレビのワイドショーの
誰かの不倫疑惑の話題に目を凝らす

この街では誰も仕事をしていない
雪かきで忙しいからではなく
AIと自動運転の車とドローンが
介護ロボットまでもが
仕事を全部やってくれるので
「生活費保障」の金をもらって暮らせるのだ
  昔、学校には先生はいましたかな
  いいえ 物心ついた時から
  AIに英語を習った世代なんですよ

そんな街の人々の上に
誰かが黙って今日も雪を降らせる
音もなく しんしんと
油断している人々の楽しみの上に
気づかれることなく日一日と
いつかすべてが雪に埋もれてしまう、
その日まで
posted by 仮名吹(かなぶき) at 05:45Comment(0)自作の詩