あの日の歌い方で


  ♪かわいた風に吹かれて

人気バンドのボーカルそっくりの歌い方で
命を発散させていた若者の
その後の消息を誰も知らない
当時のカラオケボックスは
今日も朝から客を呑み込み続けている

この街の誰も
僕を知らないし
僕も彼らを知らない
社会学の大学院生かなんかが
好んで論文に書きそうなネタだ

誰もが匿名のつもりで歩いてる
僕に詩に書かれているとも知らずに
つまらん詩だねとバカにする、
その詩に自分が登場してるとも知らずに

  ♪かわいた風に吹かれて

夜明けのコンビニ横の車道を
絶唱しながらチャリンコで爆走する、
もう若くない男がいた
あの日の歌い方とそっくりだった
もしかしたら
彼だったのかもしれない

この記事へのコメント