主のいない部屋


気がつくと
俺は他人の部屋の中にいた
誰の住まいか分からぬ、
本や資料が散らかった無人の部屋
暗がりにパソコン画面だけが光っている

ワープロソフトの画面には
逃げるなら今だ
と一行だけ打ち込まれていた
逃げたのか、この部屋の住人は

その時パソコンにメールが届いた
恐る恐る開いて読むと
  拝啓 仮名吹先生
とある。作家か何かへのファンレターなのか
本棚から「仮名吹」の著書が見つかった
女からのメールの末尾には
  明日、〇〇駅でお待ちしています
と記されていた

夜が明けるのを待って
俺は今、始発電車に揺られている
〇〇駅を目指して。
仮名吹という男について、
彼女はいろいろ知っているらしい
無名の作家が失踪した理由も
彼女の正体も
俺の正体も
もうすぐ分かるだろう

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