愛している


私は愛している
私はあの人を愛している
私はあの人を愛している私をも愛している
私が愛しているあの人が私を愛しているように愛している

私は悩んでいる
私はあの人のことで悩んでいる
私は私の悩みを聞いたあの人のことで悩んでいる
私はあの人も私のことで悩んでいるのが分かるから悩んでいる

私は忘れようとしている
私はあの人を忘れようとしている
私はあの人を忘れていることをも忘れようとしている
私が愛したあの人も私が忘れたように私を忘れようとしている
posted by 仮名吹(かなぶき) at 09:58Comment(0)自作の詩

あなたに


謝らなくてもいいよ
お金がないことがどういうことか分かっても
お金以上のものを奪われたわけじゃない
晴れた日にふたり川に沿って歩く楽しさに
値札をつける人はいないでしょう

悔やまなくてもいいよ
あなたより学歴の高い人が
あなたほど仕事に打ち込めるわけじゃない
誇りを持って働く人のいい表情の自然さは
大学で教わるものじゃないでしょう

探さなくてもいいよ
どこにもなかった人と人の絆なら
わたしたちはもう探し出したじゃない
若い恋を捨てたんじゃない 愛を見つけたの
占い師に聞く必要も もうないでしょう

覚えてくれてなくてもいいよ
わたしの誕生日はそのうちやって来るけど
あなたにはそのために稼いでほしくない
もっと大切な何かのために
かけがえのない出来事に備えて貯えましょう

世の中や人の波が
どんなにわたしたちを押し流しても
気が付くといつもこの部屋に戻っているよね
だから決めたの
わたしはここであなたと生きていく
posted by 仮名吹(かなぶき) at 23:00Comment(0)自作の詩

半獣人


オリンピック女子陸上四百メートルリレー
某先進国のアンカーは身長二メートルの超大
型ランナー
バトンを咥えて豹のように四足で走り、最下
位からのごぼう抜きで金メダルに輝いた

異変はメダル授与式で起きた
表彰台上の彼女は突然何らかの体調不良を起
こし倒れ込んだ
医師が呼ばれた
苦しさのため、いつの間にか長く伸びた爪で
ジャージをかきむしり、ほとんど肌が露出し
ている
医師が大きく呼吸するよう指示した
息を吸う時の白い肌に、吐く時には豹のよう
な模様が彼女の全身に浮かび上がった…

呼吸だけが続き、
スタジアムは静止した

大会終了後国際ジャーナリズムが彼女は本当
に人間なのかとの論陣を張り、
某先進国オリンピック委員会会長は遺伝子操
作で生まれた子であることを認めた
金メダルは剥奪され、
彼女は選手として永久追放処分を受けた
すると今度は国際ジャーナリズムが彼女は被
害者なのではないかと言い始めた

その後彼女はNGOの支援を受けてアフリカ
の草原に移住し、
時々先進各国を訪問しては「行き過ぎた科学
への警鐘」というテーマで講演をしている

ある時私は彼女に尋ねた
「今、幸せ?」
彼女は答えた
「私の人生に金メダルも失格もない。科学を
憎む気持ちもない。あるのはただ草原を走る
喜びだけよ」

記念日


若い頃は
「お前はお前のままでいいんだよ」に
無責任なことを言うなと
笑顔の底でムカついていたのに

今日背中越しに言われた、
「君は君のままでいいんだよ」に
ムカつくのも忘れ
恋愛年齢に背中を巻き戻された気がして

あなたにとっては何気ない一言
いつもの無責任な
私にとっても
ハイハイ気のせいですよ

春のさなか
今日も一日何も無い日でした
令和元年5月1日
posted by 仮名吹(かなぶき) at 13:55Comment(0)自作の詩

2070


久しぶりにコンビニに行くと
店員はみなロボットに替わっていた
業務に無駄のない動き
そのなかで一人、
モタモタしてる店員がいた
出来損ないのロボットもいたもんだ
だがよく見ると彼は人間だった
あのー、人間の店員はあなただけ?
  はい、システムがダウンした時の
  バックアップ要員です
その時、合成音声が会話を切り裂いた
賞味期限切れの弁当が
棚に一個残ってますよ、店長!

近ごろはコンビニの客といっても
買い物代行会社のロボットばかりで
人間の客が来るのは珍しい
店長の私がロボット店員の目を盗んで
こっそり彼に尋ねた
あのー、どうして人間のお客様が…?
  実は買い物代行ロボットが
  一体故障しまして、それで
  こんな時間にたたき起こされて…
  私は代行会社の社長なんですよ
posted by 仮名吹(かなぶき) at 11:33Comment(0)自作の詩

夜の半分は嘘で出来ている


そしてもう半分は予感で出来ている
いま高校生の日記か何かを真似て
「私とあなた」という題で書くなら
この夜の半分は虚構つまり
私がこれまであなたに抱いた幻想
そしてもう半分は別離の予感で出来ている

男が見たがらない映画を一人で見る
あんまりなラストに涙も出ない
下着に潜り込んだ妖精が顔を出し
どうせ終わるなら
これくらい馬鹿馬鹿しいほうが
引きずるものも無いだろうなどと言う

アパートに戻るといつものように
隣人の情事の声が少しうるさい
いや、もしかしたら私たちも
これくらい醜い二人なのかもしれない
そのとき電話が鳴って
実家の弟からだった

新年度からのトムとジェリーには
無表情の観客が加わった
夜は三分割された
愛しているとかいないとか
悪戯好きの妖精も下着と一緒に洗われて
部屋干しにされてしまった
そして三個の磁石のように
引き合いながら背を向けている夜
posted by 仮名吹(かなぶき) at 19:30Comment(0)自作の詩