みらいの約束


泣いたのは
悲しかったからじゃない
今日、また会えたから

桜の咲く季節でも
この町では雪の壁沿いに
観光バスが走っていく
お客さんに手を振りながら歩く、
あの子の姿をいつも見てた

あれから何度目かの桜
何度目かの観光シーズン
町もなんだか元気だよ
時が止まっているのは
卒業式に空いたままの隣の席

あの子の名前が呼ばれた
校長先生も友だちも
みんな泣いてた
私ひとりが泣きもしないで
隣の席に誰かいるのにおどろいて

式から帰って、じんわり
みんな一緒に卒業できたね
はじめて涙こぼれた
今日はほんとにありがとう
来てるなんて知らなかったから

泣いたのは
悲しかったからじゃない
ずっと友だちだからねと
あの子が約束してくれたから

でんぐりがえり


アパート窓の鈍い光に手を引かれて
早朝電車のごろごろ走る音が
起きろ起きろと言いに来た

ちょっと背中が痛い
ベッドの上で
でんぐりがえり
してみたけれど
もうこの部屋のどこにも
きみはいないんだね

窓の鈍い光に励まされても
でんぐりがえりだけの朝です


※電子書籍の詩集「精神病院を退院したら詩が書けた―仮名吹(かなぶき)詩集―」(アマゾンkindleストア/新涼文庫)収録作

都市鉱山(電子書籍には未収録)


お兄ちゃん、それ捨てるんかい

金曜の朝だから粗大ゴミの日だ
俺は壊れたCDラジカセを持って
ゴミ収集場所で知らないおっちゃんに
  はい、CDの音が飛んでしまうんで

要らへんのやな?
  使うんですか、これ
ラジオはまだ聴けるんやろ
それにな、全部あかんようになってもやな、
こういう精密機械には希少金属が使われとる
都市鉱山っちゅう話、聞いたことあるやろ

  なるほど!これはゴミのように見えて、
  本当は宝なんですね!捨てるのやめます
おい、ちょっと待ちいな。兄ちゃん



奥さん、聞いた?そこのアパートの男の人、
難病で急に亡くなったんですって
  それが奥さん、私見ちゃったんですよ…
  そのお兄さんが一人、
  ゴミ捨て場で独り言をブツブツ言って、
  結局CDラジカセ持って引き返したのを

やっぱり死ぬ人って最後には…
脳まで病気に侵されていたのかしら

深夜の声


コーヒー飲む?
そうだね
と、軽く返事したものの、
何かおかしい

僕の仕事は舞台の脚本家
今日の朝から稽古だから
夜のうちに書き上げないとまずい
でも僕は行き詰っていた

たしかに
コーヒーでも飲みたい気分だった
でも誰が言ったんだろう
同居人はこの時間とうに寝ている
いつものように
ソファーに横たわり毛布を被って

わからないから
この星空のどこかから
僕を見守っている人の声
ということにして素直に従って
自分でコーヒーを淹れて飲んだ
そういえばここ数日
一杯も飲んでなかった

朝が来た
台本はなんとか出来上がった
同居人が起きてきて言った
あなた、夜の間じゅう一人で
「コーヒー飲む」「そうだね」
ばかり言ってたわよ
やっと飲むまで何度も何度も

学級裁判


オカマ、キモいから死ね

2学期から
男子から女子にかわったAさんが
12月に自殺しました
遺書もなく、担任の先生は学級会で
彼女に何があったのか、
生徒たちから話を聞くことにしました

成績優秀のB君が最初に証言しました
授業態度の悪い不良のC君たちが
Aさんの心を黒く塗り潰していた、と

性同一性障がいを理由に
心の上での殺人行為は許せないと
B君はC君を激烈に責めました

オカマ菌つくぞ、近寄るなよ

先生はC君に事実かと問い質しました
C君は事実だと認めた上で言いました
B君とガールフレンドのDさんが
「殺し」の現場を指差して笑っていた、と
直接間接にクラスの全員が
若さの崩壊現象を起こしていました

その時Aさんの遺書が
机の中から発見されました
「誰も悪くありません」と
先生の筆跡で書かれていました

そして
先生も生徒たちも
みんな教室からいなくなりました
どこへ行ったのかわかりません
Aさんの机の花一輪だけを残して。

吾輩


引っ越したら隣家には
猫がいた
百匹いた

この環境に苦しめられ
近所の人たちはみな
地区から去っていった

俺の勝ちだ!と
隣家から男の声が聞こえた
でも最後まで姿は見えず
数日後、警察が
屋敷の主の遺体を発見した



隣に引っ越して来たのは
若い独身の
二人の男たちだった

一人は体の大きなオレを
吾輩と名付けた
もう一人は
来て三日で姿を消した

俺の勝ちだ!と
隣家から男の声が聞こえた
犯罪の臭いがした
数日後、警察が
もう一人の遺体を発見した



吾輩も死ぬのだろう
百匹もいては
殺処分は免れない
こうなることは
前からわかっていたことだ